深淵への誘いと孤独な魂の独白
VISION OF HELL
ファースト&セカンドアルバムを
紐解く
VISION OF HELL
ファースト&セカンドアルバムを
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心の奥底に潜む闇と絶望を描き出す孤高のバンド、VISION OF HELL。彼らの音楽は、リスナーの感情を根底から揺さぶる。2023年11月に同時リリースされた2枚のアルバムは、バンドのフロントマン・御影が自身の内面と向き合う過程を、異なる手法で克明に記録した作品と言えるだろう。
VISION OF HELLの原点であるファーストアルバム「DUST ON THE LIPS OF THE VISION OF HELL」は、バラエティに富んだ音楽性に合わせて、様々な物語が描かれる。
たとえば「ENFANTS TERRIBLES」は、ジャン・コクトーの小説「恐るべき子供たち」からインスピレーションを得て、閉鎖的な世界での破滅的な美しさを描く。「UNDERDOG」では、流行に流される人々への痛烈な揶揄を、自虐的な視点で投げかける。「HATE U」では、始まったばかりの恋の高揚感をファンキーで色彩豊かに表現する。
しかし、そんな物語たちを読み解いていくと、ほとんどの曲で登場する「君」という「他者」の存在が浮かび上がる。御影は、繰り返し「君」を登場させ、そこで執拗に「君」への思いを綴るが、「THE LAST SUMMER」では「君が死んだ去年の夏/全て終わらせるべきだったのに」と後悔しながらも自らは生き残る選択をし、「ENFANTS TERRIBLES」では「君」が誰かさえもわからなくなっている。「KISS ME DEAD」では愛が死へ、「HATE U」では愛が憎しみへと、「君」に対しての相反する感情へと変化する様を吐露する。「SEA OF MANDARA」はそのまま「君」との別れの歌だ。
結局のところ「君」と「僕」とは別の存在であり、深いところで交わらず相容れないという諦観に近い思いを読み取ることができる。同じことは、次作に収録の「FLOWERS OF ROMANCE」で「君と僕との間には/相容れぬ深い溝がある/埋めることなどできない/分かり合うことなどできない」と、より直接的な表現で語られている。
この作品の楽曲は、「他者との断絶」が繰り返し描かれている。しかしそれはポップソングという外殻に包まれて、各々の物語の中に溶け込んでいるために、リスナーに想像の余地を与えつつ、確実にVISION OF HELLのダークな世界観へと誘い込む、底なし沼の如き魅力を放っていると言える。まさしくVISION OF HELLの導入編に相応しい、文字通りファーストアルバムとしての役割を充分に果たしているといえよう。
続くセカンドアルバム「DE PROFUNDIS」で、VISION OF HELL、そして御影の表現は深化を遂げる。このアルバムは、御影が自身のパーソナリティの特異性に気づき、それをストレートに表現することこそがバンドのユニークネスに繋がるという確信のもとに制作されたという。
その言葉通り、「DE PROFUNDIS」の歌詞からは、ファーストアルバムに見られた隠喩的な表現が薄れ、御影の胸の内からの深い独白が、赤裸々に吐露されている。自己嫌悪、孤独、罪悪感、そして存在そのものへの絶望が、一切の装飾なくぶつけられるのだ。
生きていくことそのものが「罪」であると断じる「罪 ~THE CARDINAL SIN~」や、虚無感と孤独感を際立たせる「全て無意味・無駄だった」「誰も残らない」という「灰の世界」の言葉、「FLOWERS OF ROMANCE」での「他者との断絶」を示す直接的な表現、「OUT OF THE DEPTHS OF SORROW」の「僕はあのとき死んでいるべきだった」という痛切な叫びは、彼の精神世界の根幹を成す孤独と絶望を、これまで以上に直接的にリスナーへと突きつける。言葉は研ぎ澄まされ、情景描写もより抽象的でありながら、同時に感覚を直撃する鋭さを持つ。ここには、もはや隠すものなど何もない、剥き出しの御影の魂が宿っている。
そう、これらの楽曲は御影の魂の、断罪と贖罪の旅路なのである。御影が自身の魂の特異性を剥き出しにした結果、その極度の孤独や罪悪感が、かえってリスナーの奥底にある普遍的な人間の業(普遍性)と共鳴し、昇華されている。そうしてここで描かれる「地獄」が、個人の悲劇を超えた、普遍的な人間の業であることを強く印象付けるのである。最後に辿り着いた幻影の地獄とは、彼の安息の地であるのか、それとも更なる苦しみの地であるのか、それはリスナーの想像に委ねられている。
VISION OF HELLは、単なる「暗い」バンドではない。彼らが描くのは、罪、喪失、孤独、そして死といった、誰もが目を背けたくなる人間の深淵だ。彼らは、安易な慰めや救いを提示せず、むしろその深淵を直視し、そこに潜む痛みや退廃的な美しさを抉り出す。彼等の音楽は、普遍的な「闇」に共鳴する者にとって、かけがえのない存在となるだろう。そして、その闇の奥から響く御影の叫びは、聴く者の魂に、忘れがたいカタルシスの爪痕を残すに違いない。
TEXT: 8 Ball (エイト・ボール)